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橋本一子の『Miles Away』

橋本一子のマイルスへのトリビュート・アルバム『Miles Away』は、どうしてこんなにも、今もなおマイルスの不在を寂しがるマイルス・ファンの思い(喪失感)を満たすのだろう。それは、マイルスのサイドマンであったり、ライブを重ねたミュージシャンたちのどんなトリビュート・アルバムよりなのである。

橋本一子はこのアルバムのライナー・ノートで自ら「マイルス・ディビスは、私にとって、ジャズというジャンルにおいてはもとより、音楽における最 
も重要であり偉大な音楽家のひとりです。」と言っている。そして、「常に新たな地平を見据え、スタイルもジャンルも超えて突き進んだその天才は、いま音楽をやっているわたしたちに多大な影響を残していきました」とマイルスのことを語る。

橋本一子をライブで初めて聴いたのは、吉祥寺の確か曼荼羅というようなライブハウスであったと思う。山下洋輔との共演であった。橋本一子の出現は、日本の歌謡界でいうなら、荒井由実の登場のようなもので、日本のジャズ界においては、全く新鮮な輝きと驚きと幸福であったと思う。アルバム『Ichiko』『Beauty』『Vivant』~『Mood Music』の三部作、四部作は、彼女の傑作であると思うし、日本の当時のジャズに明らかに、新鮮な風を吹き込み、彩りを加えたと思っている。ジャズを基本としているが、クラシック、現代音楽、ポップスと融合し、更にハスキーでスウィートなボイス・パフォーマンスを加えた彼女独自のスタイルは、刺激的で魅力的であった。

このアルバムは彼女の14作目にして初めて、マイルスに捧げられたアルバムということになる。女のジャズピアノアルバムというと、ジャズの世界では、軟弱でジャズ以外の聴く耳に媚びたようなものというようなイメージを持ちがちであると思うが、「milestones」から始まるこのアルバムは、力強い、男顔負けといってもいいような骨太のアルバムに仕上がっている。単音は力強く歯切れよくというものであり、そこに女性的なエコーを添えて、更にボイス・パフォーマンスを加えるというようなイメージである。選曲も「Blue in Green」「E.S.P」や「Neferutiti」のような、マイルスのジャズとロック融合期のナンバーも含まれているという魅力もある。Bの伊野信義、Dsの藤本敦夫の演奏も素晴らしい。熱演ともいえる「Milestones」で始まり、ジャズの神髄を堪能せしめ、そして、ラスト、タイトル曲の「Milea Away」である。最後にこの一曲にマイルスへの思いが結論的に集約され、しかもジャズというより、美しく詩的なボーカル・ナンバーで終えるというところがこのアルバムの構成の妙であるのだと思う。現役のミュージシャンでなくても、ジャズの絶え間なき変革を強いられたマイルスの(使命的)運命というものは、誰もが意識するものであって、マイルス不在の寂しさ、喪失感は、「今度は、マイルスは、何をやるのだろう」というような希望と期待を失ったことにあると言えるからだ。この橋本一子の『Miles Away』は、まさにそのマイルス・ファンのセンチメンタリズムに似た寂寞、寂寥感を癒し、満足させているのだと思う。そうして、このアルバムは、母を亡くした(母を亡くして一年あまりなので、母のことを書いてしまうのを許して頂きたい)私の思いとも重なり、それを癒している。橋本一子がマイルスに捧げたこのアルバム『マイルスは逝ってしまった』は、先に述べたアルバムとともに、ジャズ界にとって名盤であると思う。マイルス・ファンである貴方がもし、まだ聴いていないとしたなら、是非、聴いてみて頂きたい。 R.
 
(^^)/ R.   Thank You !

 

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