桜島行きは、例によって思い立ったら吉日でその日のうちに決めて出発した。しかし、ひとつ迷ったことがあって、片道1,500km、直で約20時間の道程を休みながらも一気に走って行くか、あるいは中間地点で一泊して行くかということである。暫く考えた末、目的地に着いてから、眠くて疲れ切っているのでは話にならないなということで、中間地点の岡山でただ一泊して眠る計画にした。
実は、出発する三日まえから、味噌カツが食べたいというおなかになっていて、地元のとんかつ屋に行こうと思ったが、我慢していると、いっそ、桜島に行く途中、本場の名古屋に寄って食べたらどうだろうという考えが起こったのである。だから、この味噌カツが今回の桜島行きに大いに加担しているということになる。
最初の目的地が名古屋であるので、東名でなくいっそ山側の長野、佐久方面から攻めることにした。夏休みという気分もあって、長野の山々を抜けて走るコースは正解だったと思う。走りながら山々の息吹を吸い込んで走ってる気分だった。途中、中央道に出るにあたり佐久あたりから、岡谷、諏訪あたりまで下道を走るのだが、この下道がまたよかった。車の窓を開けると、この時期の熊谷に代表される埼玉北部の気候とは全く違い、さらさらとした涼しい風が吹き込んでくるのだ。勿論、エアコンはいらない。かつて親父と家族で訪れた諏訪湖や白樺湖、その後自分で訪れた蓼科や別所・・・の思い出を爽やかな高原の風が運んでくれた。そして、諏訪神社や岡谷の精密機械工場のことを思いつつまた高速にのった。
中央道はやはり山間を抜け、駒ケ岳を抜けて、名古屋に至る。山間をずっと走ってきたというせいもあると思うのだが、名古屋に出ると、東京に比べて本当に空が広いのだ。濃尾平野そのものをじかにみているような感じである。関東にいて、まして都市部で関東平野を感じることがあっただろうか。まるで智恵子のような気持ちになった。広い空がなぜか無性にうれしかった。
若者が教えてくれたとおり矢場とんの本店のビルはあった。中に入ってひとりだと言うと、お姉さんが厨房前のカウンター席に案内してくれた。三日も味噌カツを我慢して、ここに来たのだから、スペシャルなやつを食べてやろうという気持ちになる。「スペアリブの味噌カツ定食ね!」厨房では、仕事柄似てくるのか、豚のような店長が若い衆二人ととんかつを揚げている。長いこと走ってきてやっと味噌カツにありついたという思いも手伝って、味噌カツ定食は実に旨い。ペロッと食べてしまう。カウンターの頭上に開店当時から今に至る店の写真が掲げてある。昭和33年当時の写真が自分と関わりが深いのでその写真を撮らせてもらう。支払いのレジの女の子は、これまた愛想のいい子で、若者の言葉を借りれば「ちょー旨いっす!」とは言わなかったが「旨かったぁ!」と言って店を出た。
店を出ると外は暗くなり始めていた。名古屋に来ながら、『尾張名古屋は城でもつ』名古屋城の金の鯱を拝まないで行くのは、ちょっと心咎め、申し訳ないという気がした。
(^^)/R. Thank You !







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